女性ヴォーカル期待の新人 寝占友理絵渋谷伝承ホール
高度成長時代の「一家に一台、おピアノブーム」により、底辺が広がり、日本のピアニストの実力は確実に底上げされ、かくしてクラシック、ポピュラー、ジャズを問わずに日本人のピアニストの実力は世界的にみても抜きんでている。
それと同じような現象が、ヴォーカルの世界に起きており、カラオケブームの到来は、日本人の歌手の実力を全体的に押し上げ、今や歌がうまいのは、当たり前になってきた。
そういった厳しい状況の中で、2年前にデビューした「寝占友理絵」は、独自のアプローチで、その活躍の場を広げようとしている。その表れが、昨年(2014年)に行われた第34回浅草ジャズコンテストでのヴォーカル部門グランプリ受賞となり、一躍一線に躍り出てきた感がある。時を同じくして発売になったその寝占友理絵の初となるアルバム「Sometime Back 「あの頃の私・・・」」を記念してのコンサートに行ってみた。
渋谷にある伝承ホールのキャパは約340席。時間には250席以上は埋まる人気ぶり。初めて見る寝占に期待感が高まる。事前に、寝占の事務局からは、コンテストの模様が送られてきており、歌を聴くのは初めてではなかったが、ライブとなると意外な面を見ることができるので、実際見てみるまではわからない部分も多いからだ。
コンサートは、ナット・キング・コールの名唱で有名な「ラブ」から始まった。1曲目から得意のスキャットが軽快に出てくる。ボサノヴァの「おいしい水」カーペンターズで有名な「クロース・トゥー・ユー」と続き、寝占のMCとなる。MCはあまり得意ではないのか、テレながらの話はややマイナス。MCは、ブランディングにとって非常に重要で、プロとしては避けて通れない部分なので、今後の勉強が必要だと思う。
次に難曲「テイク・ファイブ」を歌う。この曲は、ヴォーカルとしてではなくジャズメンとしての試金石。聴かせどころでもあり、失敗すれば評価を下げる難しい曲でもある。寝占は、スイスイとクリアし、スキャットも軽やか、難なく乗り切ったかに思えた場面で、なんと、全然関係ない日本語の「スイカの名産地」を入れ込むという強引な方法に出た。
打ち上げで、事務局を務めるご母堂が、「あのスイカの名産地はよくない」とはっきりと寝占に言い渡し、私から言うことはなくなったが、ここでのいささかすぎたアレンジは、寝占も考えなければいけない課題に思える。寝占も「ちょっと、お笑いを入れてみたかった」と反省していたが、ここは今後の方向性を考える意味でも、重要に感じる。実際、会場はやや騒然としたのがこの「スイカの名産地」だった。
次に歌ったドリカムの英語版「ラブ・ラブ・ラブ」が本日の白眉。「中学の頃から歌っていた」という歌いこんだこの曲は、寝占としても一番近い部分で共感できる自分の歌なのだろう。このように、歌によるばらつきが、経験のなさともいえ、今後選曲も含めて、しっかりと自分のブランディングを考えていけば、必ず第一線で活躍できるに違いない。
第2部は、ピアノの若井優也とのデュオによる「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」によって、幕を開ける。ピアノの若井、ベースの佐藤ハチ恭彦ともに堅実なプレイで寝占をサポート。ドラムの柵木雄斗は、ややダイナミズムが物足りなく、ドラムの鳴りが遠慮がちだったのが、次の曲「キュート」では、これまでの遠慮がなくなりようやく鳴ってきた。次回は最初からこの元気が欲しいところ。
その後は、アンコールの「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」を含めて4曲、しり上がりに乗ってきたメンバーによる演奏が楽しめた。
打ち上げでは、寝占の20代前半の女性らしい、天真爛漫さも見ることができ、事務局を務めているご母堂や周りのスタッフの人柄の良さに、寝占の幸せな環境を感じた。今後の寝占友理絵の活躍に期待したい
Sometime Back
「あの頃の私・・・」
寝占友理絵待望のフルアルバム。6曲目「サマータイム」は、第34回浅草ジャズコンテストのヴォーカル部門でグランプリ受賞に輝いた時の選考曲。
本人いわく、「なんとなく選びました」ということだが、得意の器楽的スキャットには最適の選曲。ほかには、今回のコンサートでも歌ったボサノヴァの名曲「おいしい水」やアンコールで歌った「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」も収録。
ジャケットの青い象は、彼女の中学時代にまでさかのぼる大好きなキャラクターとのこと。創造的なスキャットとあふれ出るほのぼの感のギャップが魅力。