元祖スムース・ジャズ デイヴィッド・サンボーン

2014年11月

元祖スムース・ジャズ デイヴィッド・サンボーンブルーノート 東京

ジャズイメージデイヴィッド・サンボーンと言えば、ある意味チャーリー・パーカー一辺倒だったジャズ・アルト界に、R&Bやロックの世界から突然現れ、風穴をあけた功労者だ。サンボーンの躍進した時期は、ジャズの変転の時代とちょうど重なり、フュージョンからスムース・ジャズまでの流れのまさに中心人物であり続けた。

いまや押しも押されぬ大スターであり、69歳になったそのサンボーンの来日。実は、直接見るのは初めての機会になった。もちろんレコードの時代から録音はかなりの数にのぼり、その多くがスタジオ・ミュージシャンとして、一時代を築いた功績は、素晴らしいものだ。

自身名義のアルバムも24枚もあり、その多くがいまだに世界中で、売れ続けている。6回のグラミー賞受賞の実績と、8枚のゴールド・アルバムと1枚のプラチナ・アルバムと目覚ましい活躍ぶりだ。

サンボーンの功績はそれだけではなく、やはりその影響力の大きさが挙げられよう。チャーリー・パーカーの影響のあまりの大きさに、ジャズ界にあって、アルト・サックスだけが、モードやフュージョンのコード進行に対応する決定的なスタイルを持つことができていなかった。

そんな混沌とした流れの中で、サンボーンのデビューはセンセーショナルな事象として迎えられた。ペンタトニックやブルーノートスケール、ロックのギタリストのソロ構成からの影響など、誰もが、サンボーンの新時代のサックススタイルに目を見張った。

細分化され難しくなり過ぎた、コード進行の呪縛から解放され、ジャズ界自体が、大きなコードの流れに向かった中で、ある意味シンプルなものが一番インパクトを与えるという事実に、気づかせてくれたのがサンボーンでもあった。

フュージョン全盛時代においては、サンボーンとグローヴァー・ワシントン・Jrに二分されたアルト・サックス・スタイルが、そのままスムース・ジャズの誕生へと繋がった。そして、サンボーンは現在に至っても、第一人者として、演奏活動を続けている。その功績は、素直に認めなければならない。

そういった、功績すべてを踏まえたうえで、初めてのサンボーンのライブで、感じたことは、サンボーンは良くも悪くもジャズではないと言うことだった。当たり前のことなのかもしれないが、同じルーツを持ち、仕事を分け合ったマイケル・ブレッカーが長い年月をかけ、晩年はジャズ・サキソフォニストとして大成したのとは逆に、サンボーンはどんどんジャズから離れて行っているのだ。

今回のサンボーンのステージを通して感じた印象は、やはり曲に対する取り組みが、ジャズではなくフュージョンもしくはロックなど、ある程度ルーティンの決まった音楽をやっているということだ。ジャズの最大の特性が、その場で想像されるアドリブにあるとするならば、ジャズと呼ぶには、サンボーンの音楽はあまりにキメや定型の予定調和が多い。

もちろん、腕達者なメンバーなので、リズムの面でも自由に遊びを入れ、裏を取ったりパターンを変えたり、ポリリズミックな解釈により、演奏をしている場面が多くあったが、それも、サンボーンが入っていない時に限られ、サンボーンの部分だけは、ルーティン的なスクウェアなリズムの伴奏に終始している。

そして、そのこと自体はあながち悪い事ではない。サンボーンが長年やってきたフュージョンと言うものがそういったスタイルのモノがほとんどだからだ。そこにおいて、第一級の仕事をサンボーンはしてきた。だが、ここにきて、やはりその当時と同じスタイルでは、どうしても感動を与える事は難しくなってきているのだ。

それは一つに、どんな曲でも高音をヒットさせて興奮を呼ばせると言うスタイル自体が、サンボーンにとって難しくなってきているということ。高い音や大きな音がでて偉いと言う、ノイジーで今やノスタルジックなロック的フュージョン的思考ではなく、人生の深さを感じさせるサンボーンならではの奏法を今後は期待したい。

いずれにしても、健在なうちにサンボーンのライブに遭遇できたことは、ラッキーだったと思う。今後のサンボーンのさらなる飛躍を望む。

深町純&ニューヨーク・オールスターズ・ライブ

「サラ・スマイル」

マイク・マイニエリの名盤「ラブ・プレイ」での印象的なバラードを、1978年日本でのライブで再演したもの。原曲は、ホール&オーツの大ヒット曲。ここでの、サンボーンはまさに歌のないソウルの独壇場。長くスタジオミュージシャンとして活躍していた経験から、どうしても編集のイメージが強かったが、一発録りのライブにおいても同じようにソウルフルに歌えることを示した名演。

カジノ・ライツ/ワーナー・ブラザーズ・オールスターズ・ライブ・イン・モントルー

「ラブ・イズ・ノット・イナフ/愛のテーマ」

1981年のスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルでの貴重なライブ録音。バックは当時日の出の勢いのイエロー・ジャケッツらが務め、サンボーンのノリノリの演奏が聴ける1枚。サンボーンのライブ盤は実は少なく、その辺にもスタジオ出身の完ぺき主義的趣向が見える。実際は、ライブでのサンボーンは、スタジオとは違った躍動感があり、もっとライブ盤を発表していればと悔やまれる。絶好調のサンボーンがここにいる。

インサイド

「Lisa」

サンボーン十八番のこの曲。おそらくは、自身も大好きだと思われるこの曲は、数多くヴァージョンは残されているが、バックのミュージシャンやアレンジは変われども、サンボーン自体は常に変わらぬ歌いっぷり。その辺が、最大の魅力にして、評価の分かれるところでもある。サックスで歌うシンガーとしては、かくあるべきという見本のような演奏。2000年のグラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」を受賞したアルバム。

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