27年ぶりの来日 スティーヴ・グロスマン

2014年10月

27年ぶりの来日 スティーヴ・グロスマンサムデイ 新宿

スティーヴ・グロスマンと天才肌のテナーサックス奏者スティーヴ・グロスマンの実に27年ぶりとなる来日ライブが行われた。場所となった新宿の「サムデイ」では、前回の来日時にライブ音源がCDになっている。

そのCD「Live At The Someday Volume.1」が何年振りかに再発となった、という記事は読んでいた。グロスマン36歳の絶頂期のライブ音源だけに、内容は素晴らしい。同時期に録音されたDIWレーベルの「スタンダード」が、ジャケットのすばらしさに内容が付いていっていない、少々残念な内容だっただけに、このライブ盤のピリッっと締まった本気モードのグロスマンのテナーにはほれぼれさせるものがあった。

その名盤の再発、何気なくレコード店よりのメルマガの文章を読むと、なんとそこには「27年ぶりの来日記念」とあった。グロスマンが前回来日したのは、27年前の1987年のこと。ある意味伝説にもなっているその来日公演を見逃していたので、自分でも興奮が沸き起こってくるのがわかった。

日程を見ると1週間の公演で、新宿の前回と同じ「サムデイ」だけしか、やらないとある。そして、最終日が15日とあった。メールを見たのが午後3時。その日15日で、終わってしまう。なんと、ついているのかと自分でも興奮しながら、仕事を終え、新宿に向かった。

当日券でも必ず入れますとのHPの告知に反して、店内は満員で早くも熱気にあふれていた。開演時間丁度に、グロスマンが顔をだし「Today is a last day」と言った。そのまま、メンバーがステージに上がり、いよいよ今回の来日最後の演奏が始まった。

今回のメンバーは、日替わりで日本のミュージシャンが務め、最終日は西直樹(p)、安ヵ川大樹(b)、久米雅之(ds)というベテランのトリオ。グロスマンは座ったままで、1曲目の「ザ・ブルース・ウォーク」が始まった。明らかに乾いたままのリードの音色で飛び出したグロスマンだが、思ったよりも快調な出だしに期待感が高まった。

というのも、3年前に出た10年ぶりというアルバム「ホームカミング」が、往年のパワーが衰えたような淋しい出来だったからだ。ところが今回実際に、聴こえてくる音は、若干角が取れたとはいえ、まぎれもないグロスマンの音だった。おそらくは、節制をして体調を持ち直したのだろう。アドリブが進むにつれ、リードも湿ってきて、音に粘りと輪郭が出てきた。

グロスマンは、割合決まった同じレパートリーを取り上げる人で、今回のステージでもエルヴィン・ジョーンズでの出世作「ライブ・アット・ザ・ライトハウス」からのナンバー「トーラス・ピープル」や「カトーナ」などの懐かしいナンバーを変わらぬブローで聴かせてくれた。

2ステージ目のラストに、ジャムセッションということになり、日本人のミュージシャン、アルトサックスの太田剣など数名が上がった。「何やろうか、ジャイアント・ステップスか?」などと余裕のグロスマン。結局1曲目は「テナー・マッドネス」2曲目は飛び入りメンバーが変わって「グッド・ベイト」が行われた。普通はこういった場合、若手に先にアドリブを取らせ、手の内を見てから自分の作戦を練るものだが、どちらの曲でも、テーマの後のアドリブは、グロスマンが飛び出し、圧倒的な吹奏を見せつけた。それでも太田らは、奮闘し、日本のサックス奏者の実力を、少しは見せてくれたのが、収穫。今後の活躍に期待の持てる思いがした。

いずれにしても、今回は偶然ウェブで見つけたグロスマンの27年ぶりのライブに立ち会うことができて、非常にラッキーだった。これからのグロスマンの活躍に目が離せない。

ウェルドン・アンド・ザ・キャッツ

「ミスター・PC」

なんと1968年、グロスマン17歳の初録音である。第2次大戦中や戦後のミュージシャンが足りない時代ならまだしも、この時代にあって異例の早熟な天才だったと言える。ある意味、この初吹込みの時点で現在に至る奏法や音色が形成されている。未発表曲集のこのCDは、今回再発されるまでは幻の作品になっており、サインをもらおうと差し出すと「オゥ」とグロスマンから声が漏れた。そのサイン盤が隣の写真。最後に「グッドラック」と言ってもらい、握手を交わした。

パースペクティブ

「アルフォンク」

グロスマンのフュージョンは、軟弱なものではなく武闘派なイメージがある。1発ものにおいて、その凶暴なソロが炸裂するのが「アルフォンク」出だしから、フリーキーなファズ・トーンでの暴れっぷりは、楽しそうにバップフレーズを紡いでいく現在の姿とはまた別の魅力がある。今回のライブでも披露した「カトーナ」も好演。自分の好きな曲は、何回でも取り上げる傾向が顕著。

Live At The Someday Volume.1

「ミスター・サンドマン」

1954年の全米1位の大ヒット曲コーデッツの「ミスター・サンドマン」1951年生まれのグロスマンなので、3歳の頃ヒットしたこの曲を覚えていて取り上げたとは思えないが、早熟な天才肌のグロスマンだけにもしかしたらとも思える。音色と言い節回しと言い、アドリブに入るなり快調に飛ばす、36歳の絶頂期にある本格派テナーの好演。その他にもこのCDは全曲必聴。Volume.1とあるが、音源があるのならば、ぜひVolume.2も聴いてみたい。

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