イタリア・ラウンジ・モードジャズ界のカリスマ ニコラ・コンテブルーノート 東京
日本のジャズライブハウスでは、出演ミュージシャンや店構え、かかるコストなどおそらく最高峰であろう、ブルーノート東京とWEB上の日本最大級の専門家サイト、株式会社オールアバウトの協力を得て、ジャズの歴史や楽しさを座学の講座で知ってもらい、そのままライブ体験が出来る新しい講座が行われた。
その第1回目に当たる3月21日の金曜日のライブが、イタリア・ラウンジ・モードジャズのカリスマ、ニコラ・コンテだった。
恵比寿の講座会場で予習を兼ねた座学を終え、総勢35名でライブに繰り出したが、そのうちの約85%は20代~40代までの女性。もちろん、お洒落なニコラ・コンテのライブを兼ねているためその効果も考えられるが、今までのオールアバウト主催で2回行われたジャズ講座でも、90%近くが女性の受講生ばかりだった。
昨今、ジャズが女性に人気があるのか、それともそもそも講座と言うものが習い事の延長に位置し、女性の割合が多いのかは不明だが、その参加された女性の年齢から職業まで幅広く分布している事を思うと、ジャズが決してマイナーな音楽ではないという事がわかる。
そして今回、講座とライブ鑑賞を一緒にやると言う企画をしてみて強く感じたのが、この女性のパワーをどうにかジャズシーンの活性化に生かす事が出来ないか、という思いだった。実際、ジャズプレイヤーにおいては、女性の活躍は顕著で、どんどん素晴らしい新人が登場してはいるものの、それが需要を生み出すマーケティングとどこか噛み合っていない印象がある。
実際に、受講された方々の意見を聞いてみると、ジャズはマイノリティの音楽ではなく、充分先鋭的で、カッコイイ音楽という位置づけをしている事を知り嬉しくなる事が多い。だが、それだけに、取っつきにくいのも真実で、何から聴いたら良いのか、どこから行けばよいのか、というスタートを切れずにいるジャズファン予備軍が大勢いると言う事が分かる。この事に、手をこまねいていては、重大な損失だという観点を持つべきだと思う。
今回、ニコラ・コンテを講座において紹介するにあたって、キータームとしたのが、「イタリア・DJ・踊るジャズ・ラウンジ系・モード・アコースティック志向・ヴォーカルフューチャー」といった、お洒落に感じると思われるものだった。それが功を奏したのか、受講生の方々にジャズ=お洒落な大人の音楽という位置づけができ、さらにはニコラ・コンテ=ダンサブルなジャズを奏するイタリアのイケメンとまで想像が飛躍し、目前に迫ったライブまでには相当な盛り上がりを見せた第一部の講座だった。
全員送迎のタクシーで青山に移動、入口で記念撮影した時には、相当に期待感が高まっていた。そして、いよいよ本番のライブを迎えた。
実際のニコラ・コンテは、どうだったかというと、よく言えば渋い、本音で言えばあまりに地味というミュージシャンだった。少なくとも観客を喜ばせると言う意味でのエンターテイメント性は薄いと言わざるを得ない。そのトークもギターもそして今回あえて言うがその容姿も地味すぎる。想像していた「LEON」の表紙を飾れるような危険で粋なイタオヤではなく、どちらかと言えば普通に過ぎる。その上シャイなのか、にこりともしない。
肝心の演奏は、クールネスで盛り上がらない。本当にホテルのラウンジかのようなダイナミクスで物足りないと言う感想が多くを占めていた。
ある意味、この感想はそっくり彼らの良さでもあると取れる。派手な事をせず真面目で好感が持てる人柄、いぶし銀のプレイ、恥ずかしがりやで職人気質、クールで抑えたトータルサウンド、耳に心地よいバランス、BGMとして最適となれば、長所に変わる。しかし、それではライブという観点からすると少し寂しい。そしてそれは、このミュージシャンでなければという強烈なファンを生む印象からはあまりにも遠い。
これならばCDを聴いていても同じ、アルバムと同じ印象だったとライブで思わせたならば、それはミュージシャンとしては失敗なのではないか。引き出しが少なすぎるのではないか。もちろんそれは、アレンジや曲構成の事を言っているのではない。ライブならではの、体感や熱を伴った演奏者の思いと言った事を指している。
ジャズが感性の音楽であると同じくらいに、その音楽に触れた観客の感想は感性によって作られる。そしてその感性によって強化されたイメージは、そのミュージシャンに対する評価に強い影響を及ぼす。
今回のブルーノートでの初日の初演だったと言う事を差し引いても、せめてアンコールで見せてくれたような熱気を最初から出してくれていたらと言う少し残念な思いがするライブだった。
jet sounds
「Jazz Pour Dadine」
この「jet sounds」はニコラ・コンテの初リーダー作。とは言え、この当時はDJ色が強く、自身のギタープレイは聴く事が出来ない。ニコラの考えるジャズ、もしくはDJとしての職務を全うした踊れるジャズをいかんなく発揮した作品と言える。サウンドは古くて新しい不思議なタッチ。ボサノヴァやシタールなど、60年代を意識した作りで、踊らせるという観点からは相当に成功した作品だと言える。この「Jazz Pour Dadine」はポール・デスモンドの「テイク・ファイブ」をオマージュしたジャズ寄りの作品。変拍子で踊るエキスパートなダンサー向け。
Rituals
「Rituals」
このCD「Rituals」からの表題曲「Rituals」は、ニコラ自身がギターを持って、音楽に直接かかわるようになってから志向した60年代モード・ジャズ色が色濃く出た作品。マイルス・デイヴィスにより提示されたモードを忠実に再現して見せている。ここにきて、ニコラはDJと言う全職から離れ、踊らせるジャズから聴かせるジャズへ意匠替えをした作品と言える。この後ニコラはこの方向へと邁進するに至る記念すべき成功作。