スムース・ジャズの貴公子 デイヴ・コーズブルーノート 東京
デイヴ・コーズはエンターテイナーだ。それだけに、デイヴの演奏はオーディエンスなしには成立しない。そのポリシーのもと、自身の手旗信号のようなパフォーマンスや、ダンスステップ、共演のギタリストやベーシストとのシンクロした振付、はては、ギタリストの回転弾きや仰向けのけぞり弾きなどを含めたもろもろのステージングは、ひとえに観客に喜んでもらおうと考えた上でのパフォーマンスなのだろう。そういう意味では、デイヴ・コーズは、ジャズミュージシャンよりもロックミュージシャンよりの考えに近いものがある。
では、彼の考える観客、オーディエンスとはどのような人たちなのか。決して、スピーカーの前に対峙して、目をつむって一心に聴き入るような専門的な人々ではない。ライブをライブとして楽しむ事が出来る、ハッピーな人々なのではないか。事実、この日ブルーノート東京に集まったオーディエンスは相当にノリノリで、まさに目の前に繰り広げられるパフォーマンスを楽しんでいる様に見えた。
デイブの演奏する曲は、すべてが耳に心地よく響く。自身のオリジナルはもちろん、テナーで演奏した「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ 」など、有名なビートルズのこの曲を「アース・ウィンド・アンド・ファイヤー」のバージョンを用いるサービスぶり。もはや本家ビートルズと並ばんとする程ポピュラーなアースのこのバージョンは、イントロが印象的。そのイントロからの導入部を彼の得意なMCで、会場を次第に熱気に巻き込んで行く。
中盤に演奏された、テーマが魅力の彼の数あるバラードの内、特に美しいメロディの「ノウ・ユー・バイ・ハート」(アルバム、ザ・ダンス収録)では、ステージを降り、観客の中で囲まれながら吹いて見せる。その余裕と演出が、いやらしく感じられないほどの力量としたたかなエンターテイナーとしての方向性があらためて感じられた。
会場の熱気の中、アンコールでは、「さくら さくら」「スキヤキ(上を向いて歩こう)」の日本の歌から、ジャクソン5時代のマイケル・ジャクソンの代表曲「アイル・ビー・ゼア」を朗々と吹きならす。その上、マイクを持って自身が歌いながら、会場を回り、彼の差し出すマイクで歌った人には、グラミー賞候補になった一昨年前のこの場でのライブCDをプレゼントする、サービスぶり。
私が今回ご一緒した、ジャズライブが初体験だった7人の方々は、やんやの喝采で喜んでいた。こういったジャズ初心者の人々をファンにして、デイブ・コーズはさらなる人気を得て行くのがわかる。彼が考える、理想的なオーディエンスはここにあった。
では、私はと言うと、今回あまり理想的なオーディエンスには成りきれなかった。サイドメンのステージを転げまわる張り切りぶりはご愛嬌だとしても、デイヴ本人のパフォーマンスが私にはオーバーに感じて、逆に肝心の音楽が聞こえてこないもどかしさを感じたのも事実である。もしかしたら、彼らのパフォーマンスはもっと大きなホールや会場を想定したものなのかもしれないと感じた。また、アドリブにおいてもリズム隊とのキメフレーズや、アドリブ構成上の盛り上げ方など、前述のライブCDと重なる部分が多く、その上、そういったキメフレーズを出す時には、必ずと言って良いほど振付なのか、ギターと一緒にステップ踏んだり、ジャンプしたりなどしてしまうために、逆に興ざめしてしまう。この辺りが、デイヴ・コーズの評価の分かれるところだと思う。私的には、ライブCDは○、実際のライブは?といったところが、今回感じたところである。
ラッキーマン
「ユー・メイク・ミー・スマイル」
後ほどライブで頻繁に取り上げられる2曲目「ユー・メイク・ミー・スマイル」は、ソプラノにおける、彼の代表的なメロディ重視の歌い方を確定した当たり曲。ソプラノにおいては、アドリブも含めて、コルトレーンのような硬めの音ではなく、ウオーム&テンダーなやわらかめの音でメロディを綴るのが、スムース・ジャズの元祖と言われる「グローヴァー・ワシントン・Jr」から最大のヒットメーカー「ケニーG」に至るまで、王道のスタイル。早くにここに狙いを定めたデイヴは、成功への道を行き始めた。
ザ・ダンス
「アイム・ウェイティング・フォー・ユー」
「ラッキーマン」から6年が経過し、おそらく課題だったアルトサックスの奏法において、脱サンボーンを果たした演奏。よりグローヴァー・ワシントン・Jr側へ舵を切った事により、本来持っていたメロディックさが強調され、ポピュラーシーンでの成功も近づいてきた。成功と共に、周囲の期待通りにソプラノ1本に絞った「ケニーG」とは違い、デイヴはあくまでテナーも含めたマルチ的サウンドにこだわる。