82歳のクルーナー フレディ・コール

2013年7月

82歳のクルーナー フレディ・コールコットンクラブ 東京

ジャズイメージフレディ・コールは、ボーカルとしてはサラブレッドと言える。12歳上にはキングと呼ばれたナット・キング・コールがおり、ナットの娘にはナタリー・コールがいる。1991年にはそのナタリーは父親であるナットと録音上の共演を果たし、見事グラミー賞を獲得する大ヒットとなったのは記憶に新しい。(アンフォーゲッタブル)

一方、弟のフレディ・コールはと言うと、「僕は兄キじゃない、ぼくは僕だ」(I'M NOT MY BROTHER I'M ME)という題名のCDがあるほど、常に偉大な12歳年上の兄と比較をされてきて辛い思いをしていたかのように思われ、そう言われてもいる。

だが、果たしてそうなのだろうか。

彼ほどの実力があるのならば、なにも偉大な兄の威光に頼らなくても、おそらくはショービジネスの世界で成功しただろう。もしかしたら、彼はただ自分自身の歌を昔から歌っているだけだと言うであろう。彼の歌は、ナットに似ているかと言えば、ものまねのようにそっくりという印象は無い。そういう意味では、むしろオスカー・ピーターソンの歌の方がナットに似ているし、似させている。どの曲も、フレディは語尾を噛んで含むような自分の歌い回しで歌っているだけだろう。それでも曲によっては、ハッとするほど似ている瞬間があるのは事実だ。(特にモナリザの出だしなど)そして、その似ている瞬間を楽しむ聴き手が多い事も事実だろう。その事を、ショービジネスの世界で生きるフレディは痛いほど分かっているように感じる。そのさじ加減が、フレディをしてジャズとショービジネスの間の演奏家としてキャリアを続けさせる事になった。

ナットとフレディ、二人の歌の大きな違いは健康的でファミリアーなナットに比べると、フレディは82歳にしてやや不良の雰囲気があると言う事である。
渋味ではあるが枯れてはいない。まだまだ十分クルーナーとしての色気を発散させているのに驚く。
ナットの歌う「LOVE」と言う言葉が、全世界に向けたものだったのに対して、フレディの「LOVE」は二人きりの相手に対して呟くものだ。
「Merry Go Round」からのYou're Sensationalでは、「メイキンラブ」と言う歌詞の部分が危険な男の匂いを発散させており、艶っぽい。

82歳のクルーナー、フレディ・コール。まだまだ、彼から目が離せない。

ナタリー・コール

「アンフォーゲッタブル」

1970年代にデビュー曲がグラミー賞に輝くなど、華々しくデビューした彼女が、色々あった後に40歳を超え、偉大な父親に寄り添う様にしっとりと歌う「アンフォーゲッタブル」がやはり聴きもの。この曲によって彼女は3度目のグラミーに輝き、最大のヒットともなった。時間を越えた娘との共演により、なおさらにキングと呼ばれたナット・コールの素晴らしさが光っている。

I'M NOT MY BROTHER I'M ME

「スマイル」

「兄貴の名前はナット、おれの名前はフレッド、おれは兄貴じゃないぜ、おれは俺だ!」とこのCDの最後で、ナットが決してやらなかったようなシャウト的な歌い方までして熱唱するフレディ・コール。それでも、この曲の前の曲はなんと「ナット・コール・メドレー」、しかもこのCDのピアノ・ベース・ギターというトリオ編成は、そもそもナット・コールが初めて有名にしたスタイル。確信犯的な大人の洒落がなんとも粋な1枚。

Merry Go Round

「You're Sensational」

今回のライブでも取り上げていたスインギーな佳曲。自身のピアノソロではスタンダードの「I'm Beginning to See the Light」などの引用なども飛び出し、フレディのピアノの味のある上手さも光る。ささやくように歌い上げて行く途中、歌詞の「メイキン・ラブ」と言う部分が、まだまだ充分意味深に、艶っぽく響く。

Special Articles | 特集記事

ページトップへ